関西電力、アイルランドの洋上風力開発企業に出資—欧州での案件創出を加速

目次

3行サマリー

  • 関西電力(KEPCO)がアイルランドの洋上風力デベロッパー「Simply Blue Energy(SBE)」の過半数を取得する契約を締結。欧州の開発力を取り込みます。(出典:関西電力プレス / English
  • 関電にとって洋上風力デベロッパー(開発会社)への本格資本参加は初。初期段階の案件形成に直接関与できます。
  • 狙いは欧州の実装知見の“逆輸入”。将来の日本市場(とくに深海域が多い日本に適した浮体式)を見据えます。

今回の出資ポイント

  • マジョリティ取得で「意思決定」に入る
    関電の子会社(KPIC Netherlands)を通じてSBEの洋上風力部門の過半数を取得。単なる資本参加ではなく、案件選別・優先順位・人員配分といった経営判断に関与でき、将来のパイプライン形成で主導権を取りやすい構造です。
  • 「開発の源流」に入って学習速度を上げる
    権利・許認可(EIAスコーピング等)・系統接続の事前協議、入札仕様やPPA/CfDの設計、地域・漁業との合意形成まで、上流の意思決定を現場で経験できます。これにより、国内でのボトルネック把握と対処が前倒しになり、リードタイム短縮とコスト超過リスクの低減が期待できます。
  • SBEの強み=「浮体式を含む実務知見」と開発パイプライン
    欧州で着床式・浮体式の両方を手掛けており、港湾活用・係留設計・据付手順・O&Mまで含む開発ノウハウが蓄積。日本で比重が高まる浮体式の検討に直結し、Simply Blue Groupのパイプラインにアクセスできる点もシナジーです。

なぜアイルランドなのか(国の目標と市場環境)

アイルランドは、政府方針として2030年に少なくとも5GW(非系統接続の水素向け2GWを別枠)、2050年に約37GWの洋上風力を目指しています。対象海域の計画づくりと許認可の一本化、港湾の機能強化など、拡大量に見合う制度やインフラ整備が同時並行で進んでおり、「大規模化を前提にした市場設計」が特徴です。(参考:Powering Prosperity: Offshore Wind Industrial Strategy)

  • 資源ポテンシャルの高さ:大西洋側の強い風況・広大な海域を背景に、着床式に加えて将来的な浮体式の適地も多い。
  • 許認可・入札の整流化:海域指定〜環境影響評価〜入札・契約までのプロセスを透明化し、投資判断に必要な不確実性を低減。
  • 港湾・施工能力の前広な確保:部材の大型化を見据えた岸壁強化、仮置きヤードの確保などを公共・民間で計画的に進める。
  • 系統・需要の両面での受け皿:系統強化や周辺国との連系、将来的な水素製造(非系統2GW枠)の活用など、“作った電気の使い道”をあらかじめ描く。

日本にとっては、これらの取り組みが入札制度設計、海域管理、系統増強、港湾整備、漁業との共生といった実務論点の“先行事例”となります。単に容量目標があるだけでなく、「目標を現実に変える運用設計」が可視化されている点が学びの核心です。

関電にとっての戦略的意味

  1. 「過半数取得」により開発の上流工程へアクセス
    関電はSBEの過半数取得を予定。これにより、海域権利・許認可・系統接続・入札準備など初期の意思決定ポイントに関与でき、案件形成ノウハウを自社に取り込みやすくなります。
  2. 欧州の先行市場で「再現可能な実務手順」を獲得
    アイルランドを含む欧州は入札・許認可・港湾・施工の実務が先行。SBEが推進する案件群に関与することで、プロセス設計やドキュメント標準などの“型”を学び、国内展開に転用できる素材が増えます。
  3. 浮体式の実装知見を前倒しで確保
    日本は急深海域が多く浮体式の比重が高まる見込み。SBEは着床式・浮体式の双方を扱うため、係留・据付・O&Mまでの現場知にアクセスできる土台ができます。
  4. 国内KPI(~2040年:新規500万kW/累計900万kW)と整合
    関電は国内の再エネ拡大KPIを掲げています。開発機能の内製化は、案件の目利き~立上げまでの自走力を高め、KPI達成に必要な実行体制の強化に直結します。
  5. 地理・制度面での分散と契約運用の学習機会
    欧州はCfDや長期PPAなど契約手法の運用蓄積が厚い市場。価格・金利・工期リスクの扱い方を実地で学べる機会が増え、将来的な国内案件でも契約設計の選択肢を広げる余地があります。

筆者の視点

関電は、SBEへの過半数出資により案件の初期工程に踏み込む権限と機会を得ます。これは、日本で目立つボトルネック(許認可・港湾・施工計画・契約設計・調達)に対し、欧州の実装知見を“翻訳”して国内の実務に乗せる素地をつくる動きと捉えられます。国内で「撤退」がニュースになる中でも、開発現場力の底上げ知見の可視化(社内標準化)を先に進めることは、次の入札・再公募や浮体式の量産期に備えるうえで合理的です。

一方で、欧州での学習を国内に適用するには、制度・港湾・系統・施工船などの前提差を埋める作業が不可欠です。したがって本出資は即効薬ではなく「時間を買う投資」に近いと見ます。国内の制度見直し(例:入札・港湾・系統・建設船規制の運用改善)と、事業者側の実務能力の両輪がかみ合った時に、初めてスケールの効く展開が可能になるはずです。

参考ソース(一次中心)

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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