【2025年Q1】気候テック資金調達動向:ステージ×カテゴリ×投資家で解説(核融合/ヒートポンプ/高温超電導/PPA・オフテイク)

目次

はじめに

当サイトでは、四半期ごとにクライメートテックの資金調達動向を整理し、事業開発に役立つ示唆を短時間で掴める形で発信しています。
単なる金額ランキングではなく、「どの用途・機能に資金が集まったのか」「どのタイプの投資家がどの局面を支えたのか」などの分析も交えて解説します。

記事の最後には2025年Q1のクライメートテック分野で資金調達をしたスタートアップのロングリストのExcelファイルもありますので、ご興味のある方はダウンロードして是非ご活用ください。

CY2025/Q1 サマリー

2025年1〜3月に公表されたスタートアップの資金調達ラウンドは166件。開示総額は$3.87B、中央値$10M、平均$24.97M
上位10件が金額の約45%を占め、少数の大型案件に資金が集中しました。
件数はSeed(55件)Series A(45件)が厚い一方、金額はGrowth〜後期が牽引しています。

指標補足
総調達件数166件非開示は件数のみ算入
開示総額$3.8696BTop10で約45%
中央値 / 平均$10M / $24.97M大型案件が平均を押し上げ
最大ラウンドHelion Energy $425M(Growth)次点:STOKE Space $260M、Colossal Biosciences $200M
件数の主力Seed 55件、Series A 45件合計100件(全件数の約66%)
資金の牽引層Growth/後期詳細は後述

ステージ/カテゴリ別に見る

1) ステージ別:件数はアーリー厚め、金額はレイターが主導

件数Seed 55件Series A 45件で全体の約3分の2を占める。

一方で調達額Growth $929MSeries C $762MSeries B $674Mが牽引。レイター+成長系(B/C/D・Growth等)で約69%($2.67B / $3.87B)。
代表例は Helion Energy($425M)STOKE Space($260M)

平均チケットサイズ:Pre-Seed ≈$2.1M、Seed ≈$6.1M、Series A ≈$14.3M、Series B ≈$37.4M、Series C ≈$69.3M、Growth ≈$77.4M。

ステージ件数金額(開示ベース)
Pre-Seed9$19.0M
Seed55$337.6M
Series A45$642.0M
Series B18$674.0M
Series C11$762.0M
Series D1$115.0M
Growth12$929.0M
Corporate Strategic10$176.0M
Convertible Note4$202.0M
Additional capital1$13.0M
合計166$3,869.6M

2) カテゴリ別:「省エネ」「次世代発電」に資金が集中

カテゴリ別の資金調達の金額としては、⑥ 省エネ・高効率化($833M)⑤ 原子力・次世代発電($640M)② 水素・合成燃料($309M)④ エネルギー貯蔵($283.6M)の順に資金が集まりました。
⑧ その他($1,362M/約35%)は金額的には最大ですが、宇宙・合成生物・アグリなど周辺ドメインをひとまとめにする分類のため金額が大きく見えています(例:STOKE、Colossal、80 Acres、XOCEAN)。

  • 省エネ・高効率化:ヒートポンプ、HVAC制御、潮流制御など既設に後付けできるテーマが厚い。短期に効果が見えやすく、資金が集まったか。
  • 次世代発電:核融合中心に少件数×大型調達。長期PPAや大口需要家(データセンター等)の関心が資金を呼ぶ。
    ※核融合について解説した記事はこちら
  • 水素・合成燃料オフテイク/共同実証のパイプラインを有する企業が調達を主導。
    ※グリーン水素について解説した記事はこちら
  • エネルギー貯蔵:HydrostorのA-CAES等の長時間貯蔵(LDES)が目立つ。容量市場/長期契約とセットで前進。
    ※LDESについて解説した記事はこちら
カテゴリ件数金額
① カーボンリムーバル5$101.0M
② 水素・合成燃料15$309.0M
③ 再生可能エネルギー11$217.0M
④ エネルギー貯蔵15$283.6M
⑤ 原子力・次世代発電7$640.0M
⑥ 省エネ・高効率化39$833.0M
⑦ カーボンマネジメント18$124.0M
⑧ その他のClimateTech56$1,362.0M
合計166$3,869.6M(=$3.8696B)

3) 地域別:米国が最多、欧州は独/英/北欧、インド/カナダも健闘

  • 米国(66件):需要家の長期電力需要(データセンター・産業)×巨大な内需で大型ディールが成立しやすい。
  • 欧州(65件):独(核融合・先端製造)、英(気候データ・建物効率)、北欧(ヒートポンプ/電化)が厚い。政策連動で実装が速い。
  • インド(11件):フリート車両の電動化・配車/充電運用
  • カナダ(8件):長時間蓄電・資源バリューチェーンが目立つ。コスト競争力×制度の組み合わせが鍵。

Top10大型ラウンド(Q1の総調達額の45%を占有)

これらの企業は、それぞれが抱える技術と事業が、持続可能な未来に向けたエネルギーや食料供給の課題を解決する可能性があり、投資家から大きな関心を集めました。

企業名

金額
(ステージ)

技術・事業概要(クライメート観点)
Helion Energy $425M
(Growth)

パルス型の核融合装置(FRC由来)と直接発電コンセプトで商用電源を目指す。
化石代替の無炭素ベースロード電源候補として、データセンター等の長期電力需要に対応。

核融合に関して解説した記事はこちら

STOKE Space $260M
(Series C)
再使用型ロケット(上段再使用を含む)で打上コストの継続低下を狙う。
気候観測・災害監視・洋上風力の測位/監視など、気候関連の衛星データ利用を下支え。
Colossal Biosciences $200M
(Series C)
遺伝子編集・生殖工学を用いた絶滅種の復元/再野生化プラットフォーム(例:マンモス等)。
自然資本・生物多様性の保全/回復を目指す(研究段階で議論も多い)。
Hydrostor $150M
(Convertible note)

A-CAES(先進圧縮空気貯蔵):地下空洞と水圧封止を用い8〜24時間級の長時間蓄電を提供。
再エネ変動の平準化、系統の容量市場/長期契約と親和性が高い。

LDESに関して解説した記事はこちら

Inari $144M
(Growth)
ゲノム編集×計算設計で高収量・少資材の種子設計(トウモロコシ/大豆等)。
同等収量で肥料・灌漑を抑え、農業のGHG排出・資源使用を削減
Marvel Fusion $122M
(Series B)

超短パルスレーザー核融合(ナノ構造ターゲット等)で装置小型化と高効率化を追求。
長期的には無炭素の大規模電源を供給するポテンシャル。

核融合に関して解説した記事はこちら

XOCEAN $119M
(Growth)
電動の無人水上ビークル(USV)で海洋測量・環境データ取得を提供。
洋上風力のサイト調査や海底ケーブル監視に活用、有人船よりCO₂/コストを低減
80 Acres Farms $115M
(Series D)
完全制御型屋内農業(CEA):LED/環境制御で通年生産、農薬・用水を削減。
近距離供給でフードマイル/廃棄を低減(電力の脱炭素度が重要)。
Qvantum $112M
(Series C)
電気ヒートポンプ(集合住宅/商業施設・低温地域対応)を開発・製造。
ガスボイラー代替や低温地域の都市熱(DH)との連携で暖房の電化・脱炭素を加速。
Harbinger $100M
(Series B)
中型商用向け統合EVプラットフォーム(パワートレイン/電池熱管理/車両制御の内製)。
配送・シャトル等でTCO優位と運行最適化によりフリートの脱炭素化を前進。

CY2025 Q1のトレンド解説

① フロンティア×メガラウンド:核融合が金額面を牽引

なぜ核融合に資金が集まっているか?
データセンターの電力需要の急増(AI/クラウド)で、2030年代の安価な無炭素ベースロード電源に“需要の当て先”が見えたこと。
② レーザー/材料/制御の進歩や実証サイトの増加で、技術リスクの解像度が上がったこと。
③ 政策(各国の産業復活・電源多様化)と企業のRE/Scope 3圧力が、長期オフテイクの素地を作ったこと
の3点が重なりました。

※ 核融合に関して解説した記事はこちら

② 需要家サイドの電化強化:熱・ビル・送電の“すぐ効く”テーマ

なぜ需要家サイドの電化に資金が集まるか?:ヒートポンプ(Qvantum)やHVAC制御(75F)は既設に後付けでき、1〜3年での資金回収を狙える領域。
VEIRのHTSケーブルやSmart Wiresの潮流制御は、“新設より賢く使う”アプローチで都心部や混雑線区のボトルネックを緩和します。

③ 低炭素素材・プロセス:セメント、CO₂利用、リチウム

採用の決め手は「互換性×コスト×供給の確実性」。

Terra CO₂は既存のセメント工程に馴染むSCM系、
TwelveはCO₂電解→化学/燃料の“ドロップイン”製品
MangroveはLiの電気化学的精製で品質・歩留まり・電力ミックス

を武器に資金を集めています。

④ LDES/インフラの回帰:A-CAESなど「長く・大きく」の再評価

リチウムイオンの“4時間の壁”を越える用途(夜間帯/季節・8〜24h級)にHydrostorのA-CAES等が再評価。系統サービス+容量市場+長期契約の収益スタックで、投資回収の見通しが立ちやすくなりました。

※ LDESに関して解説した記事はこちら

⑤ モビリティ:商用艦隊・充電インフラ・アンモニア動力

HarbingerやBluSmartのようなEVフリート主体は、稼働率・ルート・充電運用を自社最適化しコスト優位を確保。Amogyはアンモニアの高密度・既存サプライ網を活かし、長距離・重量用途の電化に挑んでいます。

総保有コスト(TCO)で既存車を上回れるかが勝負どころです。

主要な投資家の動き

A. クライメート特化VC

クライメート特化VCは、基盤技術フロンティア領域に継続的に投資する傾向が見られました。

これらの投資家は、「長期的な産業基盤を支える技術」を選定し、クライメートテックの活躍が今後必要不可欠であると見込まれる分野に着目しています。
例えば、核融合低炭素セメントなど、高リスク高リターンの技術を支援しています。

また、これらのVCは、気候リスクを抑えつつ、基盤インフラの再構築を視野に入れて投資しているようにも思えます。

VC名VCの特徴・スタンスQ1の主なディール
Breakthrough Energy Ventures(BEV)送電・建物・素材などインフラ基盤のブレークスルーに継続投資。Terra CO₂(低炭素セメント)
VEIR(高温超電導送電)
75F(ビル空調制御/BEMS)
Lowercarbon Capital核融合・新素材・CDRなどフロンティア領域に機動的。Renaissance Fusion(核融合)
Energy Impact Partners(EIP)ユーティリティ連携に強く、グリッド/地熱/需要家ソリューションを実装志向で支援。Bedrock Energy(地中熱/HVAC)
AP VenturesH₂材料・PGM活用の触媒/電解など水素バリューチェーン特化。Amogy(アンモニア燃料システム)
Just Climate重工業・素材の大幅削減にフォーカス。スケール志向。Terra CO₂(低炭素セメント)
Congruent Venturesクライメート特化のアーリー中心。送配電・建物系に強み。VEIR(高温超電導送電)
ArcTern Venturesクライメート特化の成長投資。モビリティ/エネルギー軸。Harbinger(商用EV)
S2G Ventures食・海洋・自然資本など“自然×気候”テーマを継続支援。XOCEAN(無人海洋データ)

B. クライメート特化ではないVC(汎用/横断型:気候以外にも広く投資するVC)

汎用型/横断型VCは、気候分野を含む多様な業界への投資を行い、特にスケールアップ・事業展開に注力しています。
これらのVCは、成長資本を提供し、市場規模の拡大を目指す姿勢が特徴です。

気候分野に特化しないため、気候技術以外の業界や大規模な産業間連携にも投資しています。例えば、バイオテクノロジーAIといった汎用技術への投資を行い、気候技術とのクロスオーバーを図っていまるプレイヤー達です。

VC名VCの特徴・スタンスQ1の主なディール
EQT Ventures欧州の成長投資を横断。エンタープライズ/インフラ/ディープテックをカバー。Marvel Fusion(核融合)
Capricorn Investment Groupサステナ/サイエンス寄りだが汎用型。スケール資本の供給力。Helion Energy(核融合)
Harbinger(商用EV)
Khosla VenturesAI/バイオ/気候の横断ディープテック。Spiritus(DAC)
DCVC合成生物/先端製造/気候を含む横断ディープテック。Twelve(CO₂電解)
Crédit Mutuel Impactインパクト志向の汎用型。地域/雇用などの外部性も重視。Renaissance Fusion(核融合)
The Engine(MIT)大学発ディープテックVC。気候は柱の一つ。VEIR(高温超電導送電)

C. CVC/業界コンソーシアム

戦略CVCは、需要側のコミットメントやサプライチェーンの連携に重きを置いています。

これらの投資家は、単に資金提供を行うだけでなく、スタートアップの製品やサービスを自社の顧客に直接結びつける役割も担っています。
量産・商用化の段階においては、PPA(電力購入契約)やオフテイク契約など、確実な需要を見込んだ投資を行っています。

VC名VCの特徴・スタンスQ1の主なディール
Amazon Climate Pledge Fund需要側コミットやサプライ連携に強い。導入・販路の実効力。Twelve(CO₂電解)
Shell Ventures燃料/化学/インフラの実装ネットワーク。パイロット〜規模化に強み。Origen Carbon(DAC)
Aramco Ventures重工・燃料チェーンの展開力。大型設備・調達の実績。Amogy(アンモニア燃料システム)
BMW i Venturesモビリティ×素材の量産接続。自動車サプライチェーンに強い。Mangrove Lithium(Li精製)
Munich Re Ventures保険系CVC。気候×リスク/インフラの横断投資。VEIR(高温超電導送電)
Climate Investment(OGCI)エネルギー事業者の業界コンソーシアムVC。現場実装へのアクセス。XOCEAN(無人海洋データ)
75F(ビル空調制御/BEMS)

所感:事業・投資への示唆

“使える電化”が勝つ
ビル/熱/送電など既設アセットにドロップインで効く技術は、導入障壁が低く資金効率が高い
PoC→商用への移行速度を左右するのは、現場の工事性・運用の簡便さ・既存設備との整合

フロンティアは需要の“見せ方”が勝負
核融合や宇宙は需要側のコミットメント(PPA、軌道上サービス、データ需要)の有無が投資の背骨。
スケールの絵を早期に提示できる企業が資本を呼び込んでいる。
※ 核融合に関して解説した記事はこちら

LDESは制度×案件形成
10h超の価値は市場単独では捉えにくい。
容量市場/長期契約など制度とセットで事業化の検討が必要。
※ LDESに関して解説した記事はこちら

低炭素素材/プロセスは“互換性”が鍵
セメントやLi精製のような巨大産業のボトルネックでは、既存設備互換・品質管理・サプライ確保が最重要KPI。

投資家は“役割”で見る
技術深掘り(BEV/Lowercarbon/EIP)、サプライチェーン/需要連携(Amazon CPF/Aramco/Shell/BMW i)、スケール資本(Capricorn/EQT/DCVC)など、ラウンド目的に適した投資家の参画が事業の成功確率を上げる。

方法・注記

  • ソース:CTVCのニュースレター(Deals of the Week )などの公開情報を基に、当サイトで整備した CY2025/Q1 ロングリスト(Excel)を一次データとして使用。企業情報は企業発表(HP、ニュースリリース)等の公開情報を使用。
  • 対象:CY2025/Q1(2025-01-01〜03-31)のスタートアップ・エクイティ系ラウンド(Pre-Seed〜Growth 等)。Exit / IPO / Grant / Project Finance は除外。
  • 金額開示ベースのみ集計。非開示は件数のみ算入。通貨はすべて USD 表記。
  • 分類:カテゴリは当サイトのカテゴリ8分類を使用。
    ※「⑧ その他」は宇宙 / 合成生物 / アグリ等の包括カテゴリのため、金額が相対的に大きく見えます。
  • 投資家名:ニュースレター等の表記に準拠。
  • ステージ表記:一般的な Pre-Seed / Seed / Series A–D / Growth / Corporate Strategic等 を採用。
  • 留意点:大型案件ほど金額が開示されやすい上方バイアスが存在。

付録:この記事の作成に用いたCY2025/Q1 ロングリスト(Excel)は、以下からダウンロードできます。

ニュースレターを購読する

NetZero Insights Japanの新着・注目トピックを週1で配信します。更新情報を見逃したくない方は是非ご登録ください。

 

※ 時々メールマガジン限定の情報も配信するかもしれません。

 

 

このフォームで取得したメールアドレスは、NetZero Insights Japanのニュースレター配信にのみ利用します。

ニュースレターの購読を申し込むことで、プライバシーポリシーに同意したものとします。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

目次