大阪ガス、バイオプラからバイオガス化の実証を開始—下水処理場で「回収→分解→消化」を一気通貫

大阪ガスが大阪公立大学・大阪市と組み、使い終わった弁当容器(バイオプラスチック)をエネルギーに変える実証を始めます。

舞台は大阪公立大学・森之宮キャンパスと、隣接する中浜下水処理場。容器を集めて分解し、下水処理場の消化槽でバイオガス(メタン)を発生させ、場内のエネルギーに使います。

目次

3行サマリー

  • 回収→分解→下水処理場でガス化までを産官学で一貫運用(国内初)。期間は2025/11/4〜12/22(森之宮キャンパス)。
  • 小型試験では下水汚泥単独の約3倍のバイオガスを確認。実証では約60m³(一般家庭約30戸/日相当)を見込む。
  • 関西圏ポテンシャルは約3万t/年→約3,200万m³/年のバイオガス相当。2030年ごろ実用化を目指す方針。

背景:バイオプラとバイオガスって何?

バイオプラ(PLA)とは

とうもろこし等の植物由来資源から作るプラスチックです。今回使うのはPLA(ポリ乳酸)加水分解で乳酸に戻しやすいのがポイントで、後工程(消化)と相性が良い素材です。

バイオガスとは

生ごみや汚泥などを嫌気性消化(酸素なしで微生物が分解)すると発生するガスのこと。主成分はメタン(約60%)CO₂(約40%)で、発電や熱利用に使えます。

今回の実証:ざっくり3ステップ

  1. 容器を回収:森之宮キャンパスの食堂でPLA容器の弁当を期間限定で販売し、使用後の容器を学内で回収。
  2. 乳酸に分解:大阪ガスの技術でPLAを乳酸へ。これが消化槽の“良いエサ”になります。
  3. 下水処理場でガス化:隣接する中浜下水処理場の消化槽に投入。メタン菌が分解し、バイオガスを発生→場内でエネルギー利用します。

なぜ今?(制度・市場の流れ)

政策の追い風

政府は2030年にバイオプラ導入量200万t(2018年の約30倍)を目標にしています。作るだけでなく、使い終わった後の“行き先”を示すことが重要です。

都市インフラの活用

下水処理場には全国的に消化槽が整備されています。今回のモデルは、既存設備を生かしてコストを抑えつつ、循環とエネルギー化を同時に実現しようとする取り組みです。

数字で見る本実証

  • 期間:2025/11/4(火)〜12/22(月)
  • 想定バイオガス量:約60m³(一般家庭約30戸/日の都市ガス使用相当)
  • 小型試験の結果:乳酸を加えるとバイオガス発生量が約3倍(汚泥単独比)
  • CO₂削減見込み:約340kg(石油系プラ約60kg削減相当)
  • ガス組成:メタン約60%、CO₂約40%
  • 関西圏の潜在量:対象バイオプラ約3万t/年→約3,200万m³/年(一般家庭約4万戸/年相当)
  • ロードマップ:2030年ごろ実用化を目指して段階的にスケールアップ

筆者の視点

PLAの評価は、素材単体の優劣よりも「回収と処理をどう設計するか」で決まります。一般のPETやPPと同じ回収ラインに混ぜると品質を落とすため、PLAは専用の分別・回収が前提です。そのハードルを下げる鍵が、今回の大阪ガスのようなPLA→乳酸→下水消化ガスというルートです。既存の下水処理場にある消化槽という社会インフラを活かせるため、追加投資を抑えつつ実装に踏み出せます。

価格の議論では、PLAは石油由来プラより単価が高いのが通例で、“高いから使えない”という結論に流れがちです。ここで視点を変え、「使用後の価値」まで含めて評価するのが現実的です。たとえば、回収した容器がエネルギー化されCO₂削減に直結する、非常時のBCP価値教育・PR効果をもたらす——こうした非価格の付加価値を束ねれば、購買側が「価格だけで比べない理由」を持てます。素材・回収・利用をワンセットで提案することが、PLAの“存在意義”を伝える近道です。

一方で、現実的に広域普及は簡単ではありません。キャンパス、病院、スタジアム、イベントのような囲い込み可能な拠点では分別が徹底しやすく、近隣の処理場と結べば事業が回ります。しかし、日常のテイクアウトのように利用場所が分散するケースでは、PLAだけを正確に集め続けるのが難しい。私の目安としては、回収率70%超・異物混入5%未満・処理場まで10km圏が見えると、運用・コスト・LCAのバランスが取りやすくなります(あくまで運用設計の目安)。

したがって戦略は段階的に考えるべきです。まずは「1拠点×1処理場」で成功モデルを作り、回収率・ガス収率・コスト・CO₂削減の実測データを積み上げる。次に、大学群や病院群、商業施設群などを束ねる地域クラスターに広げ、最後に自治体主導で表示・分別の標準化やEPR型の拠出制度に接続する。表示の色分けやQRによるデジタルトレーサビリティを併用すれば、識別精度はさらに高まります。

結論として、PLAは「どこでも万能」ではありませんが、拠点限定の最適条件を見極め、既存インフラと噛み合わせることで、価格のハンデを“使用後の価値”で補える素材です。まず小さく確実に回し、その実績とデータを武器にクラスター化・制度化へ——この順番が、PLAを“価格だけでは語れない選択肢”に引き上げる最短ルートだと考えます。

主要ソース(一次情報)

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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