今週の3トピック——CDRハイライト、ポータブル蓄電池×エアコンDR、1.9GWh系統用蓄電池稼働(2025/08/11–17)

今週の気になったニュースは3本(2025/08/11–08/17)

CDR(CO₂除去):「長期固定(100年以上)」型の実装と資金調達が進展
― CDR関連ニュースのウィークリーハイライト
②ニューヨーク:エアコン×ポータブル蓄電池で夏季ピーク需要を平準化
― 需要ひっ迫時にポータブル蓄電池からエアコンを駆動する実証。DR/VPPの新しい実装モデルとして検証が進む。
③オレゴン:変電所直結の大規模蓄電(BESS 475MW/1.9GWh)が一斉稼働
― 送電増強の繰延と価格ボラ抑制を狙う系統用蓄電池。容量契約やBTAなど調達スキームも示唆。

目次

① CDRウィークリーハイライト—「小さく速い実装」と「大規模の積み上げ」

Mission Zero × Deep Sky(カナダ):電気化学式DACの第3号機がアルバータのDeep Sky Alphaで稼働開始。英国内2基に続く初の国際導入で、設計は~250 tCO2/年。同社は「設置から約10か月でスイッチオン」という実装スピードを強調しており、サイトの再エネ電源と組み合わせて恒久貯留へ接続する計画です。

1PointFiveOccidental(米・テキサス):DACハブSTRATOS建設進捗94%2025年内の商業運転を目標に最終工程。能力は50万t/年設計で、地中貯留のClass VI許認可を取得済み。大口のクレジット販売契約や電源調達も進み、年内立ち上げの確度が高まっています。

Equatic(DOC+H2):Series A 1,160万ドルを調達。Temasek TrustのC3HとKibo Investが主導し、10万t/年級の海水DOC設備に向けたエンジ進展・商業化に充当。海水電解で恒久的炭酸塩化+グリーン水素製造を同時に狙う“2in1”モデルの資金面が前進しました。

Graphyte(米・アーカンソー):バイオマス残渣を低温処理・封止するCarbon Castingの能力を14,000 → 45,000 t/年3倍化する計画を公表。北米西海岸(BC)やアリゾナでの新サイト構想を含め、供給量の積み増しを急ぐ姿勢が見えます。

筆者の視点:
熱駆動主体が多いDACに対し、電気化学DAC海水DOCなど「低温・通電駆動」系のアプローチが増えています。
小型・短工期で速く積む実装を目指すMission ZeroやDOCのEquaticなど。
こういったアプローチは、高温熱を使わない為、従来方式のDACに比べ低コスト化が期待されます。
一方で、DOCはMRVの課題がどう解決されていくか、引き続き要注目です。

※DACについて解説した記事はこちら

※DOCについて解説した記事はこちら

②ポータブル蓄電池で“エアコン起因ピーク”を平準化

ニューヨーク市で、エアコン(AC)をLFP(リン酸鉄)系の小型ポータブル電池につなぎ、需給ひっ迫時に電池からACを駆動して系統負荷を下げる実証Responsible Gridが進行中。
運営はStandard Potential、ユーティリティはCon Edison
今夏は約65世帯が参加し、1台あたり100ドル超/シーズンのインセンティブが提示されています。
ポータブル蓄電池は商用実績のあるパートナー製(Bluetti)を採用し、電池種はLFP、安全性と寿命(17年相当)をうたいます。

制度・運用の要点
本パイロットはCon EdisonのDRメニュー(CSRP/DLRP)のアグリゲータ枠で推進。
利用規約上、目的はDR運用(停電時の常用バックアップは対象外)と明記されますが、結果として熱波・停電局面での体感的なレジリエンス向上も報じられています。
工事不要で配布・回収が容易なため、スケールアウトが速い“超軽量VPP”として注目度が高まっています。

筆者の視点:
ポータブル蓄電池であれば工事費は不要ですので、ポータブル蓄電池の価格/リーススキーム・DR報酬(容量・kWh)をうまく設計すれば、kW単価あたりの回避コストが据置家庭用蓄電池より優位になる可能性があるかもしれません。個人的に深堀り検討してみたいテーマです。

③オレゴンで475MW/1.9GWhの系統用BESSが一斉稼働

Portland General Electric(PGEがポートランド都市圏の主要変電所直結・4時間機3案件同時に通電。
内訳はSeaside 200MW/800MWh(0.8GWh)、Sundial 200MW/800MWh(0.8GWh)、Constable 75MW/300MWh(0.3GWh)で、合計475MW/1.9GWh
3施設の合計で「約30万戸×4時間」の供給力と説明しています(PGE公表)。

スキームと配置:
Eolian開発のSeaside 200MW固定価格BTA(建設・譲渡)でPGE保有へ。
Sundial 200MWはEolian開発、NextEra Energy Resourcesが運用し、PGEと20年の容量契約
Constable 75MWMortensonのEPCで建設。
いずれも変電所直結で、送電増強の繰延と価格ボラ抑制を狙う設計です。

筆者の視点:
送電混雑の課題に対し、容量価値+価格抑制を同時に取りにいく“変電所直付けBESS”は、国内の配電系統でも適用余地が大きい類型。
加えて、今回採用されているBTA+容量契約の組み合わせは、ユーティリティ側に建設・性能リスクを乗せずにレートベース資産化を進められる点で実装ハードルを下げる有力スキームだと思います。

参考リンク集

略語集

  • DAC:Direct Air Capture(直接空気回収)。大気中のCO2を装置で直接回収する技術。
  • DOC:Direct Ocean Capture。海水中の無機炭素(DIC)からCO2を回収・固定する技術。
  • CDR:Carbon Dioxide Removal。大気・海洋からCO2を除去し、長期に固定する取り組み。
  • MRV:Measurement, Reporting and Verification。量定・報告・検証の枠組み。
  • ICVCM/CCP:Integrity Council for the Voluntary Carbon Market / Core Carbon Principles。自発的炭素市場の品質基準。
  • BESS:Battery Energy Storage System。大規模蓄電システム。
  • BTA:Build-Transfer Agreement。建設後に事業主体へ譲渡する契約形態。
  • PPA:Power Purchase Agreement。電力(または容量)を長期で売買する契約。
  • DR:Demand Response。需要家側の負荷を調整して系統安定化に寄与する仕組み。
  • VPP:Virtual Power Plant。分散電源・需要家設備を統合制御し“仮想発電所”として運用する仕組み。
  • Class VI:米EPAの地中貯留井(CO2)に関する許認可区分(地下飲用水保護を目的とするUICプログラムの区分)。

※本稿は一次情報(企業リリース/公式ブログ/プログラム案内)から作成しております。数量・時期・契約スキームは各リンク先の原文に準拠しています。

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この記事を書いた人

・ニックネーム:脱炭素メガネ
・所属:国内大手エネルギー企業
・担当領域:新規事業開発(経験10年以上)
・主なテーマ:次世代再エネ、カーボンリムーバル(DAC/DOC/BECCS/CCUS)、グリーン水素(AEM/PEM等)、LDES、次世代原子力(SMR)、核融合 など
・役割:クライメートテック分野の全社的な戦略策定・実行のリード、スタートアップ出資(スカウティング〜評価〜実行)

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